阿部共実さんの『ちーちゃんはちょっと足りない』という漫画があります。
以下、公式HPよりあらすじを引用します。
成績、お金、恋人、友達、いつも何かが足りない気がする中学2年生女子のちーちゃんとナツ。
2人はクラスの中で成績優秀な友達・旭や、学級委員に助けられながらも、普通の日々を送っていた。
そんなある日、ナツとちーちゃんは学校帰りに寄ったお店で、クラスの目立つグループの女子・藤岡から「万引きしねえ?」と声をかけられる。
ナツはその場を上手くしのいだが、お金が足りずに買えなかった可愛いリボンが忘れられずにいた。
後日、教室で女子バスケ部員が顧問の誕生日プレゼントを買うために、部員である藤岡から集金をしていた。
その様子を目撃した旭は、「学校でお金のやり取りは危ない」と注意をしたが、部員達に煙たがられる。
そして放課後、事件は起きた。
はい、あからさまに苦しいですね。本当に苦しいです。
この作品から着想し、「足りない」という曲を書きました。

以下、歌詞を引用します。
あまりにも愚かなお前を
俺はどうすればよかった?
見え透いた嘘や
つまらない話で
日々は色褪せてく
あまりにも幼いお前と
俺は何をするべきだった?
すり切れた術と
回らないルーレット
日々は繰り返してく
お前の足りない
そのすべてが疎ましかった
どうしてお前の
手には何も無いのか
教えて
お前は足りない
それなのになぜ笑えるのか
どうしてお前の
手が放せないのか
お前も足りない
ここには何も無い
どうして俺たちは
ここまで足りないのか
教えて
「足りなさ」の視点というものは、大抵「制御不可能な外部環境」に対して向けられる他責的なものです。
その対象はときに恋人であり、ときに友人であり、ときに地域であり、ときに世代でしょう。
「親ガチャ」といった表現は、分かりやすくこれらの視点を反映したものであるように思えます。
ただ、この「足りなさ」とは、得てして他者が設定したナンセンスな価値観を内在化したが故の、「自滅回路」のようなものではないでしょうか。
あまりにも愚かですね。
こうして自らに組み込んだ自滅回路としての「足りなさ」は、深層心理の底で燃え続ける炎となり、ときにその道を照らし、ときにその身を焼き尽くすのかもしれません。

曲やMV全体を通して、「循環と固定」という2つの対照的なテーマを、様々なモチーフを用いて描いています。
循環とは、繰り返すつまらない日々であり、抜け出せない格差固定のループであり、半音下降し続けて循環するコード進行であり、二人が過ごす時間を示す時計です。
固定とは、回らないルーレットであり、変えられない家庭環境であり、必要な存在と離れた後の時間です。

本MVの制作は前作のGUITAR MV制作期間中に、カヤハラが素案を考えるところから始まりました。
GUITAR MVの制作はほぼ中野深夜(以下ナカシン)、オサダ、ヒラコの三者で進めてくれたため、自分はそれと並行して足りないMVのストーリー案を固めていきました。
(チーム罅、いつもほんまありがとう)

カヤハラがシーン案を整理しました。
年度末で仕事のバタバタと重なって死ぬかと思いました。
以下のような作品をリファレンスに練っていきました。

ナカシンがシーン案をブラッシュアップして絵コンテ化してくれました。
(ナカシンはいつも絵コンテが手書きかつ絵心が絶妙)

ここからナカシン×カヤハラの定期会議が始まります。
ここでナカシンが「わたしのような天気さんと凜花さんに出演してもらうのはどうか」と提案してくれました。
お二人のInstagramやX(やPodcast)を拝見して即決。ナカシンに誘ってもらったところご快諾いただきました。
このあたりから「これもう勝ち確なのでは…?」と雰囲気が流れ始めます。(俺の中で)

設定資料を(無駄に細かく)まとめました。これまとめてる時ほんと楽しかった。
「どうすれば登場人物全員にとって一番辛い物語になるか」だけを考えて、登場人物の父母+祖父母まで人物像や来歴をまとめました。
様々な登場人物が登場しますが、誰にも悪意はなく、純粋な相手への愛に基づいて行動する人々で、その結果が全て不幸へ向かっていく物語、いいですよね。
思い返すと子どものころ、小説を書いたり架空のゲームの設定資料集を作ったりするのが好きでした。
その経験を30歳を目前にして初めて活かすことができました。
(あの頃の俺、ほんまありがとう。)
小説家を目指していたこともありましたが、小学生のころジャポニカ学習帳に大量に書きこんだ自作小説を満を持して親に読ませとき、
「ストーリーのドラマチックさに対して主人公の心理描写が甘い」と一蹴され、諦めました。

ナカシン、わたしのような天気さん、凜花さんとカヤハラで顔合わせとして、うまい飯を食いに行きました。
みんなめっちゃいいやつだし話が上手くてめちゃめちゃ楽しかったです。
(人生で初めて「BeReal撮っていいですか」と聞かれ、三十路目前のカヤハラはたじろいだ)
撮影で使うLINE風画面、着信画面、インタビューWEBページ等をカヤハラが制作しました。
(Codex、ほんまありがとう)

撮影予定の日に台風直撃。一時はどうなることがと思ったが無事追加費用なしで日程変更。
(スタジオの人、ほんまありがとう)

ついに撮影当日。
「自分が考えたキャラクターが実体を持って目の前に存在している」ということに爆感動。
ぼんやりと「いつかストーリーのついた映像を作ってみたい」という夢を持っていたのですが、ここで叶いました。感無量。
撮影はナカシンと大岩くんの計画的な進行によってテキパキ進み、時間が余りまくる事態に。
演じてくれた二人は本当に素晴らしく、最初の楽し気に過ごす数シーンを見ただけで目が潤むカヤハラ。
みんながすごすぎてカヤハラは呑気にお菓子食べてたら終わってました。


みんないいやつで雰囲気も良くめっちゃ楽しかった!
(みんな、ほんまありがとう)
わた天さん(奥)。普段は賑やかなのに撮影が始まると雰囲気が変わって、「これが役者か、、」と思った。

凜花さん。わた天さんと二人で話しているところを見るともう「理花と和(役名)やん、、」となり目が潤む。

大岩くん。通称死人フェア。Tシャツの下にもう一枚Tシャツ仕込んでてすごかった。

ナカシン。こんな繊細な映像を作るやつとは思えない写真。
足りないMVはこうして制作されました。とてもいい作品ができたと思うのでぜひ見てください。
皆さんの中で燃える炎のことを、私は想い続けています。
罅 カヤハラ